知人の結婚式出席のため、夫婦で東京・銀座のホテルに宿泊した翌朝のこと。部屋に届いた朝刊の題字下に「坂本繁二郎展・ブリジストン美術館」※1の広告を見つけました。
昔、実家の居間に飾ってあった一点の静物画。純日本家屋にはちょっとモダンなその油絵には、リンゴやみかんのような、ありふれた果物が描かれていたような気がします。そして絵の右下にひらがなで「さかもと」のサインが。どんな人なのか当時は知るよしもありませんでした。ただ、父から「大切な絵だからね」「手にとって観たいならこれにしなさい」と渡された画集に、淡い色調で描かれた優しい馬の群れや、静物画が、少年時代の記憶として残っていました。
そんなこともすっかり忘れてしまっていた20歳の秋。コンパで知り合った彼女と京都をデートしている時でした。駅でみつけた、懐かしい馬の絵の展覧会告知。導かれるように京都国立近代美術館へ向かい、一点、一点、確かめるように特別展示の絵を観てまわりました。
「これだ!」
我が家の静物画と同じモチーフのバリエーション。なつかしいような、恐れ多いような、不思議な気持ちにひたっている私と、そんな姿を好意的に見てくれたその時の彼女。おつきあいは長く続かなかったけれど・・・。
夫が新聞に目を通しながら、淡い想い出にひたっていることなど全く気が付かない様子の妻は、午前中に、友人が勤務する銀座の宝飾店の予約をしてあるから一緒に来て欲しいという。断る理由もなくついて行けば、年に2回の社員家族特別セールとかで、値札からさらに何割引になる表示が。しかしそんなコーナーには目もくれず、妻は特別大放出品販売の整理券を配布する列に並ぶ。そのたくましさ、さすが関西人。そして気に入った指輪やネックレスをいくつか手に入れて満足顔。この程度の出費でご機嫌になっていただければ、こちらもまんざらではない。
店を出ると、妻はタクシーを止めた。「あそこへ、行くんでしょ」
運転手に「ブリジストン美術館まで」と告げた。
いつだったか、実家の絵の話をしていたらしい。坂本繁二郎と青木繁の画風を混同してしまう程度のかすかな記憶ではあったが、覚えていてくれた。夫婦としてのゆるやかな時間の蓄積に、揺がない安心感のようなものを感じていた。
今回は妻と鑑賞する「坂本繁二郎展」。淡い昔の記憶がかすんでしまう、現実もまた、美なるものか。
大阪へ戻ったら、週末、大阪市立東洋陶磁美術館へ誘ってみよう。
私は、今もはっきり覚えている。妻がその昔、飛青磁や油滴天目の美しさに腰を抜かしそうになったことを。
大阪市立東洋陶磁美術館公式サイト
http://www.moco.or.jp
住所 大阪府大阪市北区中之島1ー1ー26
問い合わせ 06-6454-8600
※情報は変更等がありますので必ず公式サイトでご確認ください。
料金 一般 1,200円 高・大生 800円 中学生以下無料
開館時間
午前9時30分〜午後5時(最終入館 午後4時30分)
●休館日
毎週月曜日(その日が祝日の場合は開館しますので、その翌日)
祝日の翌日(日曜日を除く)
年末年始(12/28〜1/4)
※ 展示替等のため、臨時休館をする場合があります。
※ 交通(最寄駅)
電 車:地下鉄御堂筋線、京阪電車「淀屋橋」駅/地下鉄堺筋線、
京阪電車「北浜」駅/いずれも徒歩5分、中之島公会堂東側
●駐車場
一般向け専用駐車場はありません。
※日曜日・祝日 午前10時〜午後4時の間、中之島公園内は「車輛進入禁止」となります。中之島公園外周辺駐車場に止めて、のんびり散歩するのがおすすめです。
ブリジストン美術館公式サイト
http://www.bridgestone-museum.gr.jp/
●住所 東京都中央区京橋1丁目10番1号
●問い合わせ 03.3563.0241
・情報は変更等がありますので必ず公式サイトでご確認ください。
●料金 個人一般800円シニア(65歳以上) 600円大学・高校生500円 中学生以下無料(特別展を除く)
●開館時間火曜〜土曜 10:00 - 20:00 日曜・祝日 10:00 - 18:00 入館は閉館の30分前まで
●交通案内 JR 東京駅(八重洲中央口)より徒歩5分地下鉄 京橋駅(明治屋口) / 日本橋駅(高島屋口)より徒歩5分
※1 ブリジストン美術館 坂本繁二郎展は終了しています。
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