「お盆に臨時同窓会。懐かしい顔ぶれの中に・・・。」
ちょっと怖い??冗談怪談。
会社の夏休み。法事で久しぶりに実家に帰った。
子供は塾の夏期講習日程が詰まっているので、1泊しただけで妻と一緒に大阪へ帰っていった。せっかくなんで自分は実家でゆっくりすることに。
20年ぶりに地元を歩いてみる。すっかり寂れたシャッター通り。通学の足だった鉄道は廃線で、道路に変わっていた。
それでも、夏の日差しに暖めたれた草のにおい、お祭りで演奏する曲を練習する子供達の姿は今も変わらない。
バス停前のお好み焼き屋は健在だった。たしか、小学校の同級生の実家だったはず。あまりしゃべったことのない奴だったが。
店には若い女性の従業員?よく見ればまだ高校生のような感じ。愛想があるわけでもなく、注文を受けると馴れた手つきでお好み焼きを焼き始めた。
店のBGMは
♪いとしのレイラ ■デレク・アンド・ザ・ドミノス
エリック・クラプトンが「クリーム」解散後に出したアルバム曲。イントロのギターリフは何度コピーしたことか。親友だったビートルズのジョージ・ハリスンの妻パティに恋をしてしまい、その苦悩から生まれた曲だったなぁ。
昼真っから生ビールで喉を潤し、懐かしい曲を聴く。一瞬にして記憶は、この町で暮らしていた10代にフィードバックする。
バンドデビューを夢見て練習スタジオ通いした17歳の頃。帰りにメンバーとよく立ち寄ったお好み焼き店だった。
スタジオ代をバイトで稼ぐだけで精一杯の俺たちに、いつも、キャベツだけのお好み焼きを200円で食べさせてくれた。
♪ホテル・カリフォルニア LIVEバージョン ■イーグルス
続く曲はイーグルス。懐かしい曲が続く。これはUSENではなく FMラジオの特集?しかしLIVEバージョンを選曲するとはマニアックな。
『イーグルス・ヒストリーBOX 1972~1999』からホテル・カリフォルニア LIVEバージョン(The Millenium Concert)だな。
昔を懐かしんでいる間に、お好み焼きが焼きあがった。大阪の通好みのそれとは一線を画す田舎くさいちょっと大判サイズ。
今はいくらでもトッピングできるのに、頼んだのはキャベツだけのシンプル焼き。
一口食べると、キャベツの風味が口の中に広がる。うん、あの懐かしい味だ。それにソース。お好みソースのブレンドが、田舎独特の甘さと辛さが交互してやってくる。すくなくとも自分には美味しい。
♪スモーク・オン・ザ・ウォーター ■ディープ・パープルカバーKUWATA BAND
ロックの定番スモーク・オン・ザ・ウォーター。普通のファンなら初来日した1972年8月の公演の模様を実況録音したライブ・アルバム「ライヴ・イン・ジャパン」を押すところだが、演奏するのは日本を代表するPOPロックバンド「KUWATA BAND」。この曲は、サザンオールスターズが出演したCM TDK『AD 46』LIVEヴァージョン。
これは完全に店の店主のプレイリストだな。よくみると音響セットの横にi-podが置いてある。
「ただいま」と覇気のない声で男が入ってきた。
「遅~い」「早く。お小遣い!」
お好み焼きを焼いた少女は、男から数枚の千円札を奪い取ると、走って店を出ていった。
「すみません。ばたばたしまして」
と、挨拶したオヤジは、どことなく見覚えのある顔。
オヤジも不思議そうな顔でこちらを見ている。
「あっ~コージ」「達也ぁ〜」
「コージは実家を継いでいたのか」
「いや俺は隣の饅頭屋を継いで、ここは嫁がやってるんだけど。今日は嫁がお盆で実家の手伝いに行ってるから留守番。」
「嫁、知ってるよな。2つ下で。バレー部で、ほら、お前にあこがれてた裕美」
「ふ~ん。そうなんだ。(悪いが覚えていない)」
「達也は、大阪へ行ったんだよな・・・」
昔の記憶をたぐり寄せながら、思い出話に花が咲く。
♪ロックン・ロール ■レッド ツェッペリン
『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ』から。ツエッペリンを聴くならLIVE。チョーテキトーな演奏かと思われる反面、生演奏の醍醐味を最大限に楽しませてくれる。
たくさんのミュージシャンがカバーを出していので聴いてみたが、やっぱりジミーペイジのギターを越える奴はいない。
「そういえば昨日、隆がここにきたぜ。お前、バンド組んでただろう」
ベースの隆。バンドのメンバーで、幼稚園からずっと悪ガキ仲間だった。
「昨日電話番号聞いたからかけてみようか・・・」
といいながらすでに、携帯をプッシュしている。
「すぐ、来るって。」
そうだ、最近懐かしい曲をi-podに入れたんだ。
♪空へ ■カルメンマキ&oz
『ライヴ』から
「おまえこの曲、LIVE HOUSEでよく演奏してたな。」
あまり話したことないと思っていたが、実はコージとはタイバン(対抗バンド→ライブを行う際に単独名義ではなく、複数のグループと共演(競演)する事)で、けっこう接触していたことを思い出した。
♪私は風 ■カルメンマキ&oz
『ライヴ』から
「しかしこんな古い曲がよくあったな。」
「さすがアマゾンストアだな」
曲に聴き入ってると、隆が数人の同窓生を連れてやってきた。
そこからは、それぞれが知っている連絡先に電話して旧友を呼ぶ。
いつのまにか店は貸切。10人を超えるほどに膨らんで、大宴会。
ギターを持ち出し弾き語りする奴。カラオケでキャンディーズをハモるやつ。
そんなドンチャン騒ぎの中、気がつけば自分の前にひとりの男が座っていた。
「おまえは確か、田宮?」
「そうだよ。田宮だ。覚えてるか、お前に貸したギターアンプ、あれ、どうした?」
やばっ。すっかり忘れていた。
田宮から借りたギターアンプを積んだままバイクでこけて、壊したんだった。
しかし、こいつ二十数年前のことをよく覚えているよな。
「悪いな。あれ壊してしまったんだ。弁償するよ」
「いいよ。もう。お前のことだから勝手に誰かに転売したのかと思ってたよ」
「そこまでワルじゃないよ。」
「おい達也。さっきから、なにお前ひとりでぶつぶつしゃべってんだよ。」と、いい調子に出来上がった隆がやってきた。
「おう、丁度よかった。ほら、こいつ田宮だよ。あの壊れたアンプの持ち主。」
「・・・。田宮ああああ????」と引きつるように大きな声を上げたせいで、盛り上がっていた臨時同窓会が、一瞬にして静まり返った。
「田宮だって・・・」
「またかよ・・・」
ヒソヒソ話が聞こえてくる。
「達也。お前は知らないと思うけど、田宮は10年前に亡くなったんだ。心不全で」
「えっ・・・。でも今、ココで俺としゃべってたのは・・・」
「それが同窓会すると時々やってきては、あんときお前に30円貸したよなって、思い出話するんだよ。あいつ」
「今日も出てきたんだな」
「冗談じゃないよな」
「そう、怪談だよ」
「うそだろ」
「・・・」
「まあ、お盆だし、いいじゃん。田宮も入れてみんなで今晩は、盛り上がろうぜ。」
♪smoky ■Char
『Char』から
いや、さだまさしの『精霊流し』のほうがいか?
かんべんしてくれ。
俺は、からかわれているのか???
何十年たっても、再会すれば一瞬にしてその当時の気持ちに戻れる不思議な関係。
悪ノリする連中の子供のような笑い顔は昔のままだった。